
現役社内翻通訳者のYです。<詳しいプロフィールはこちら>
私は現在サイマルアカデミーで学びつつ、製造業(自動車)の現場で社内通訳として働いています。
通訳学校に通っていると、ある時期から
「宿題もテスト対策もしているのに、手応えと成績がつながらない」
と感じる瞬間が訪れます。
授業の音声はなんとなく追えているのに、訳になると途端に言葉がほどけてしまう——私自身も、そんな“見えない壁”に何度もぶつかってきました。
この記事は、その壁を「根性」ではなく、伸び悩みの正体を整理して、構造でほどくための総論です。「いま何が原因か」を切り分け、いまの自分に一番効く練習を選ぶための地図として参考にしてみてください。
・通訳訓練が、一般的な英語学習とどこが違うのか
・「論理構築力・処理速度・表現の自然さ」と、理解・リテンション・表現の3本柱の関係
・自分のボトルネック(原因)を見つけ、最短で効く練習に繋げる考え方
・4つの壁(症状)と9つの道具(処方箋)の使い分け
こんな人におすすめ!
・フィードバックで「論理構築力」「処理速度」「表現の自然さ」と言われるが、具体策が見えない
・リスニングはある程度できるが、情報量が増えると訳が崩れたり、数字・条件をよく落としてしまう
・いろいろな訓練法を試してきたものの、「自分はいま何を優先して鍛ぐべきか」を整理したい
通訳訓練と「英語学習」の違い
英語学習は、基本的に「理解できる範囲を広げる」ことが中心です。
語彙・文法・読解・リスニングなどを積み上げて、理解の精度を上げていく。一方、通訳は——理解したそばから情報を記憶保持して、別の言語で出す。
しかも、時間は待ってくれません。
だから通訳訓練では、英語力を上げるだけでは足りなくて、理解したものを時間内に崩さず相手に伝わる形で出すことが必要になります。
つまり通訳は、知識量だけでなく以下のことが同時に問われます。
通訳は「理解→保持→表現」を同時に回す競技
通訳の処理は「理解 → 保持 → 表現」の3段階に分けられます。
この3段階に対応する力が、理解力・リテンション力・表現力の3本柱です。
通訳学校のフィードバックでよく出る言葉も、裏側はだいたいこの構造に紐づきます。

- 論理構築力:理解+記憶保持(リテンション)で「骨組みを作る力」
- 処理速度:それを時間内に回す力(回転力)
- 表現の自然さ:聞き手にとって違和感のない表現の出し方
「論理構築力」「表現の自然さ」は、通訳プロセス(理解→保持→表現)のどこで崩れているかを説明するときに使われやすい言葉です。
一方で、処理速度は、理解・保持・表現のどれか1工程を指す言葉ではありません。処理速度とは、理解・保持・表現の3工程すべてを、時間内に回し切る回転力です。
処理速度が落ちると、
といった形で、3工程すべてに影響が出ます。
そのため処理速度は、「4本目の柱」ではなく、3本柱を支えるエンジン・余裕・回転数に近い概念です。
そしてここで大事なのは——理解力、記憶保持「リテンション」、と「処理速度」は違うということです。
ここが混ざると、練習がズレます。
つまり、通訳の不調は「知識不足」「記憶力不足」「表現力不足」と単純に決めつけられません。
症状(落ちた・遅れた)と原因(どこが崩れたか)は一致しないからです。
- どの工程(理解/保持/表現)が崩れているか
- 回転力(処理速度)が足りているか
これを切り分けことが、通訳訓練メニュー選びの出発点になります。
見分け方はざっくりと「背景知識」と「聞き方」も含めて判断します。
まずは、どの工程(理解/保持/表現)が崩れているのか? そして、回転力(処理速度)が足りているか?を切り分けることが、通訳訓練メニューを選ぶ出発点になります。
まず何を鍛える?柱別・詰まり方と優先順位
ここでは「いま何が原因か」を先に分けます。
同じ“崩れ”に見えても、原因が違うと効く練習は変わります。

理解が詰まる:まず「音→意味」を安定させる
ありがちな詰まり方
- 音が取れない/速いと崩れる
- 固有名詞や数字で止まる
- 文の構造が追えず、意味が曖昧なまま進む
優先する方向性
- 音の入口を広げる(聞き取りの自動化)
- 意味のかたまりで捉える癖を作る(単語追いをやめる)
まず効きやすい練習(代表)
- シャドーイング
- サイトラ/スラッシュリーディング
- リプロダクション
リテンションが詰まる:話の「筋」を落とさない設計
ありがちな詰まり方
- 分かったつもりなのに、後で再現できない
- 数字・条件・対比・因果が抜ける
- 一部の情報が薄くなる/“ざっくり印象”だけが残る
ここでよくあるのが、「保持が弱い」と思っていたら、実は理解不足だったパターンです。
「覚えられない」の前に、そもそもつかめていないことがあります。
この切り分けのコツは、落ちた情報の種類を見ること。
優先する方向性
- 情報を「骨組み」にして持つ(全部を丸暗記しない)
- 保持を頭だけに頼らず、論理構造をノート取りで頭のメモリーから逃がす
まず効きやすい練習(代表)
- リプロダクション
- サマライジング(要約)
- ノート・テイキング
- サイトラ(段落構造の把握)
表現が詰まる:「口」と「引き出し」を別々に鍛える
ありがちな詰まり方
- 頭では分かるのに口が動かない
- 組み立てに時間がかかる
- いつも同じ表現で硬い/不自然
ここも混線しやすいので分けます。
まず効きやすい練習(代表)
- クイック・レスポンス
- 音読・暗唱
- パラフレージング
処理速度は“別能力”としてどう扱う?

処理速度は、3本柱のどれか一つではなく、全部を回す回転力です。
ポイントは2つ。
- 負荷を上げすぎず、止まらず回す練習を増やす(止まる=速度が落ちる)
- 同じ素材を使い倒して、自動化を増やす(自動化=速度)
【簡易チェック】いま詰まりやすい場所はどこ?
ここからは、トレーニングを「知識」ではなく「処方箋」として使えるように整理していきます。
まずは、いまの自分のボトルネックに当たりをつけてください。YESが多いところが、現時点の“優先ゾーン”になりやすいです。
次の章では、この“原因”が現場や授業でどう見えるかを、4つの壁(症状)として整理します。
3本柱の強化と4つの壁に効く方法
通訳の崩れ方は、だいたい次の4タイプに分けられます。
音の壁(リスニング)──情報が“入ってこない”
音が取れない/速さについていけない/固有名詞でつまずく…という状態は、3本柱のうち、とくに 理解力(+処理速度) が詰まっているケースと言えます。
この壁に効きやすい主なトレーニングは、
- 語彙・リスニングのインプット
- サイト・トランスレーション
- シャドーイング
- リプロダクション
など、「耳と処理速度」の底上げをするメニューです。
処理の壁(脳処理)──情報量に溺れてしまう
言っていることは分かるのに、途中で筋を見失う/数字・条件を落とす。
これは リテンション(保持と構造化)+処理速度 が追いついていない、または ノート配分で溺れている状態です。
この「処理の壁」は、さらに3タイプに分けられます。
どれが主因かは、セルフチェック+録音で見える化するのが早いです。
表現の壁(発話の瞬発力)──言葉が出てこない・表現がぎこちない
次は頭では分かっているのに、口が動かない/日本語・英語がうまく組み立てられない状態です。
これは 表現+処理速度 の問題で、瞬発力と引き出しが絡みます。
この場合は、
- クイック・レスポンス
- シャドーイング
- 音読・暗唱
など、「とっさに口を動かす」タイプのトレーニングです。
引き出しの壁(表現ストック)──表現の幅が出ない
伝わるけれど硬い/いつも同じ言い回しになる——これは主に 表現が中心の課題です。
この場合、下記のような、「言い方のバリエーション」と「メッセージの見せ方」を増やすトレーニングが効きます。
- シャドーイング
- 音読・暗唱
- パラフレージング
4つの壁それぞれが、実際のクラスでどう現れるか、どんなフィードバックになるかは、下記の記事で詳しく書いています。
9つの道具(処方箋)一覧:何がどこに効く?
ここからは「道具箱」です。大事なのは、9つを全部やることではなく、いまの自分の壁に合わせて1〜2個を選んで当てること。
同じ練習でも、目的が違うと効き方が変わります。

1. シャドーイング
音の壁/処理速度の土台に効果的です。
2. クイック・レスポンス
表現の壁(沈黙・瞬発力)に効果的です。
3. リプロダクション
理解・保持の穴の可視化(診断ツール)に効果的です。
4. サマライジング(要約)
骨組み化(論理構築+見せ方)に効果的です。
5. ノート・テイキング
保持の外部メモリ化(処理の壁の安定)に効果的です。
6. サイトラ/スラッシュリーディング
構文・段落処理(理解×構造)に効果的です。
7. 音読・暗唱

表現の型・レジスターを身体に入れるのに効果的です。
8. パラフレージング
言い換えの対応力(自然さ)に効果的です。
9. 録音→聞き返し&書き起こし
抜け・飛び・違和感の点検(総合診断)として効果的です。時間はかかりますが、問題が“見える形”になるので効果が出やすいです。

ここまで、通訳訓練でよく使われるトレーニングを9つまとめました。ただ、ここで大事なのは 「9つを全部やれば伸びる」ではないという点です。
同じ練習でも、いま自分がつまずいている場所が違うと、効き方も優先順位も変わります。
つまり、通訳訓練は “道具(9つ)”を、症状に合わせて選ぶ ほうが伸びやすいのです。9つの道具は、目的(=どの壁を安定させたいか)で選ぶと効き方がブレません。
次は、時間がない人向けに「まずこれだけ」の基本セットを紹介します。
迷ったらこの1セット:「同じ教材でシャドーイング+ほぼ暗唱」
「あれこれやる時間がない」「自分がどのタイプか分からない」という方は、ひとまず同じ教材で「音読→シャドーイング → 暗唱」まで回すのがおすすめです。
Step1:スクリプトありで内容理解(語彙・背景を潰す)
Step2:シャドーイング(意味を取りながら止めずに追う)
Step3:音読→ほぼ暗唱(型を身体に入れる)
Step4:要約 or パラフレーズ(骨組みと見せ方を整える)
同じ教材をここまで“使い倒す”と、
- 聞き取りと意味の流れ → 理解力
- 情報の保持と骨組み → リテンション力(論理構築力)
- 口から出てくるスピードと自然さ → 表現力
の3本柱をまとめて鍛えられます。
次の章では、その練習を 独学と通訳学校でどう分担すると進めやすいか を整理します。
独学と通訳学校の「役割分担」のイメージ
ここまで見てきた3本柱と9つのトレーニングは、その多くを「独学+音声教材」でも回せるメニューです。
といった部分は、やり方さえ分かれば、自宅でも積み上げやすい領域です。
一方で、次のようなところは訓練環境のほうが伸ばしやすい/見えやすい領域です。
ネイティブ講師や現役通訳者、クラスメイトの存在があることで、「自分の現在地」と「次に直すべきポイント」が一気にクリアになります。
その意味で、以下の役割分担で考えておくと、限られた時間とコストでも訓練を進めやすくなります。
- 独学:3本柱の筋トレと処理速度・表現ストックを地道に積む場
- 通訳学校:ボトルネックの診断と調整、本番に近い負荷をかけていく場
独学でどこまで通用するか/どのあたりから訓練環境が必要になってくるかは、別記事「独学で通訳はどこまで通用する?できること・限界・必要な訓練を徹底解説」で詳しく書いています。
まとめ──3本柱を意識すると、通訳訓練の全体像が見えてくる
通訳の伸び悩みは、気合いや根性の問題に見えがちです。でも実際は、「どこで詰まっているか」が曖昧なまま練習しているだけ、というケースが多いと感じます。
この総論でお伝えしたかったのは、通訳訓練を “整理してから当てる” だけで、伸び方が変わるということです。

迷ったときは、次の順番に戻ってきてください。
- 3本柱で原因を分ける(理解/保持/表現)
- 4つの壁で症状を言語化する(音/処理/表現/引き出し)
- 道具箱からメイン1つ(+必要ならサブ1つ)を選ぶ
- 同じ教材で1〜2週間だけ回し、崩れ方の変化を見る
通訳訓練は、いろんな練習法に手を広げるより、少数の練習を“目的つきで回す” ほうが伸びやすいです。
通訳学校まわりの全体像をまとめて見たい方は、「通訳学校について一気にわかる案内板」 もあわせてご覧ください。
本記事が、みなさんの学習の参考になれば幸いです。
この記事は有益でしたか?
このブログを書いている人
社内通訳として働きながら、通訳学校で学んだことをベースに「英語学習の工夫」を発信しています。
シャドーイングやディクテーション、独学の限界など、実践的に役立つ情報をお届けします。


