
現役社内翻通訳者のYです。<詳しいプロフィールはこちら>
通訳学校での学びや日々の奮闘を、実体験を交えて綴る「通訳学校回顧録」シリーズをお届けしています。
通訳準備クラスの期末テストを控え、私は想定問題をChatGPTで作成し、練習を重ねました。しかし、本番の話者設定は予想外で、時制ミスを犯してしまった自分の録音を聞き返す中で、目の前に “現在の自分の位置” が浮かび上がりました。
はじめに
前回の回顧録では、サイマル通訳準備クラスの後半を振り返りました。
BBC音源のリスニングや暗唱課題、赤ペン先生の丁寧な添削を通して、少しずつ基礎力が積み上がっていく感覚を覚えていました。
ただその一方で、期末テストを前にした不安も大きくなっていました。期末テストが近づくにつれて、クラス全体に静かな緊張が漂っていました。
サイマルの通訳準備クラスに通って数か月。課題にも少し慣れ始めていた時期でしたが、期末テストだけは空気が違っていました。この一回の結果で「進級」できるかどうかが決まる。そう思うと、胸の奥に小さなざわめきを感じました。
サイマルの通訳準備クラス、期末テストの出題形式
テストの2週間前、事務局から「期末試験のお題」が共有されました。
英日のテーマは、“海外の大学教授が日本の大学スタッフとの事前打ち合わせをする”、
日英のテーマは、“作家が学校で講演をする”というものでした。
期末テストの形式は、受講生がZoom上で音声を一斉に聞き取り、その内容を通訳するのを各自のPCに録音し、音声データを提出するというものでした。リテイクは不可です。
ですので、通信環境によって音声が聞こえない、あるいは自分の訳出がちゃんと録音されるよう、有線ケーブルに接続するなど、できる対応は準備しました。
時間制限もあり、実力がそのまま結果に反映されます。中間テストと同じやり方ではあるものの、期末テストということもあり、「ここで自分の通訳がどこまで通じるのか」を確かめる試験。
中間テストとは違う緊張感がありました。
ChatGPTを使った練習で見落とした「落とし穴」
与えられたお題をもとに、私はChatGPTに練習用のスクリプトを作ってもらいました。特に、日英のお題では、想定話者を「小説家」と設定し、その人物が過去の経験を語る、という前提で練習を重ねました。
過去形の表現を中心に、文体のリズムや語彙の置き換えを試しながら、訳出の精度を高めていきました。ところが、本番の話者はまったく別の立場でした。
“作家を目指す学生”が主な語り手として、現在進行形で夢に向かって努力している様子を語っていたのです。想定と真逆の時制でした。その音声を聞いた瞬間、頭の中で準備してきた訳し方が静かに崩れていく感覚がありました。
後で録音を聞き返すと、私はほとんどの文を過去形で訳していました。音声の内容自体は理解できていたのに、文法の精度がボロボロになってしまったのです。冷静に聞けば明らかなミスでしたが、気づけなかったことが悔しさを増しました。
今の自分の位置は、理解できても再現しきれない、その狭間にあるのだと感じました。
テスト後の自己分析と、進級面談への不安
提出を終えた直後の記憶はほとんどありません。緊張のあまり、通訳中の瞬間の記憶が抜け落ちていました。
翌日に自分の録音を再生したとき、静かな絶望が訪れました。
「なぜ、時制の変化に気づかなかったのか」。
反省というよりも、ただ驚きに近い感覚でした。進級面談が近づくにつれて、気持ちは沈んでいきました。このクラスでは“文法の正確さ”がとても重視されています。
過去形と現在形の取り違えは致命的。
落ちても仕方がない――そう思いながら、面談当日を迎えました。
意外な進級判定と講師の言葉
Zoom越しに聞こえてきた講師の言葉は――
「進級してもらいます。」
意外でした。驚きよりも、ほっと息をついた感覚が先にきました。続いて、講師は期末テストのフィードバックを伝えてくださいました。
「英語の内容理解は問題ありません。通訳者としてのマインドも感じます。事前準備も常に丁寧です。」
「問題は文法だけ、でも文法は本人の努力で次第で直せる。Yさんは上のクラスに行った方が成長できるタイプだと思います。」
その一言に、少しだけ救われる思いがしました。
授業に向けて毎回丁寧に準備してきた姿勢を、通訳者としての意識と努力として評価していただけたように感じ、次に向かうための大きな支えになりました。
サイマル通訳準備クラスの厳しい進級率
後で知ったことですが、この期の進級率は12人中2人でした。数字だけを見ても、やはり厳しい世界だと感じます。
課題提出や授業態度だけではなく、「通訳者としての伸びしろ」も講師が見ているのではないか、後になって、じわりと感じるようになりました。
通訳学校のクラス構成や進級率については、下記の記事で触れていますが、
サイマルの通訳準備クラスと、その上位である逐次通訳Ⅰクラスの間には、
想像以上に高い壁があります。
この事実を知ったとき、「進級」という言葉の重みを突きつけられたというより、
想像していた以上に、この二つのクラスの間には厚い壁があるのだと痛感しました。
そう考えると、進級の意味は単なる合否以上のものに感じられました。
「覚悟があるかどうか」――講師の言葉の重み
通訳者に求められる「覚悟」という条件
最後の授業で、担当講師の次の言葉が今でも印象強く記憶に残っています。
「長年教えていて思うのは、進級する人とそうでない人の違いは“覚悟”です。本気で通訳者になると決めているかどうかです。」
静かな声でしたが、その言葉には重みがありました。通訳という仕事は、技術や語学力だけでは成り立ちません。日々の準備、失敗の反省、そして自分への問いかけ――それらを積み重ねる覚悟が求められるのだと感じました。
この言葉は、その後の通訳訓練を支える芯のような存在になりました。そして、この言葉はさらに先のクラスで、形を変えて再び出逢うことになります。
時間をおいて効いてくる「何気ない一言」
「覚悟があるかどうか」という言葉が、胸の奥で静かに、そして小さく響き続けていました。小さくても確かに灯り続ける火のような感覚。
今でも、講師の方々が何気なく口にされた言葉の数々を、ふと思い出すことがあります。以外と“ポロッと”こぼした一言ほど、後になって深い真実を含んでいることが多いのです。
その瞬間には意味が分からなくても、時が経つにつれて「なるほど、そういうことだったのか」と腑に落ちる瞬間が訪れます。
だからこそ、授業中に放たれる一語一句を聴き逃さないよう、心に留めておくようにしています。
その言葉たちは、後になって光を放ち、私の進む道を照らしてくれる存在です。
どの方向に向かっていけばいいか悩んでいる時、胸奥の灯りが、ひそかに強まって、
進むべき道をそっと照らしてくれる気がします。
通訳力に必要な「二つの土台」
期末テストの結果は、ひとつの通過点にすぎません。けれど、あの一連の経験を通して「通訳力とは何か」を考えるようになりました。技術だけでなく、状況に応じて思考を切り替える柔軟さ。そして、失敗から立ち上がる力。
進級できたこと以上に、講師の言葉に背中を押された意味が大きかったです。「通訳者になる覚悟があるか」――その問いは今も静かに胸の中にあります。
振り返れば、通訳準備クラスを終えたときに手渡された言葉は――「英語は理解できている、足りないのは文法だけ。」
“それなら努力で補えるから、次のステップへ進みましょう。”
この後も文法の弱さに苦しめられてきましたし、それが上のクラスで大きな壁となり、成長の歩みを鈍らせました。けれども同時に、通訳の基礎力とは文法だけでは語れないのだと、少しずつ実感していました。
さいごに
英語を正しく理解できるかどうか。そして理解した内容を、自分の言葉で語れるかどうか。結局、この二つが揃わなければ、通訳は成立しません。
文法はこの二つに欠かせない足場。けれど、それだけでは橋は渡れない――通訳準備クラスを経て、私はかすかにそう感じ始めていました。
そして、結果が見えにくい時こそ、「覚悟」という言葉の意味を自分に問い直すことが、次の一歩につながるのだと思います。
そして次回からは、本格的な逐次通訳訓練が始まる「IC1クラス」で、また新たな壁と向き合う日々を振り返ります。
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このブログを書いている人
現役社内通訳者として、サイマルアカデミーで学んだ日々を「回顧録シリーズ」として記録しています。
授業での体験や葛藤、成長の過程を率直に記録しています。
同じように通訳を目指す方に「リアルな声」として参考になれば幸いです。



