
現役社内翻通訳者のYです。<詳しいプロフィールはこちら>
製造業(自動車)の社内通訳を経験し、独学に加え、通訳学校での学びを取り入れながら実務に臨んできました。
本記事では、その実体験をもとに「独学でどこまで通用するのか」「どこから専門訓練が必要なのか」を整理してお伝えします。
「通訳トレーニングは独学でどこまでできるのか?」
「通訳になるには独学だけで足りるのか?」
結論だけ先にまとめると、観光・日常会話レベルまでは独学+実地経験で十分狙えます。
ですが、本格的な社内通訳や国際会議レベルでは、専門訓練がほぼ必須になります。
本記事では、社内通訳としての実務経験と、通訳学校での学びをもとに、
- 独学で積み上げやすい力
- 独学だけでは見えにくい「上限」
- 通訳学校に通う意味と、独学との役割分担
を整理していきます。
通訳学校まわりの全体像を知りたい方は、「通訳学校について一気にわかる案内板」 もあわせて参考にしてみてください。
独学で通訳は可能か?
通訳の現場で問われているのは、大きく分けると次の3つです。
- 何を言っているかを聞き取り、意味を取る力(理解)
- 必要な情報を落とさず、筋を追い続ける力(記憶保持=リテンション)
- 聞き手に伝わる形で、もう一方の言語に組み立て直す力(表現)
これを一言で表現するなら、こうです。
「理解・リテンション・表現」という3本柱を、限られた時間の中でどこまで安定して回せるか
この3本柱のうち、語彙・文法・リスニング、シャドーイングやリテンションといった「筋トレ部分」は工夫次第で独学でも鍛えられます。
一方で、どのレベルなら通訳として通用するのかという基準線や、高負荷時の崩れ方、訳の質感・メンタル面――
これらは、独学だけでは見えにくい領域です。私自身、独学の限界を経験しました。
なぜ私の独学が限界に達したのかは、下記の記事で深掘りしています。
▶なぜなぜ分析#00|独学が限界になる理由
もちろん、中には独学中心で活躍されている方もいます。
ですが、多くの人にとっては、「自分が目指す分野」に応じて、独学と訓練環境をどう組み合わせるかを考える方が現実的だと感じています。
そこで、観光/社内/国際会議という3つのフィールド別に、「独学で到達しやすいライン」と「専門訓練が必要になるライン」 を整理していきます。
分野ごとの違い:独学で到達できるレベル
まずは、大まかな到達ラインのイメージです。
| 分野 | 独学で可能 | 独学では限界 |
|---|---|---|
| 観光通訳 | ◎ 日常会話レベル対応可 | – |
| 社内通訳 | △ 補助的業務なら可能 | 本格的な逐次/同時は訓練必要 |
| 国際会議 | × | 専門訓練必須 |
✔ 独学で可能:基礎語学力、逐次通訳の初歩、背景調査
⬆ 経験を積めばできる:社内会議の補助的通訳、現場での実地対応
✘ 専門訓練が必要:同時通訳、国際会議レベルの即応
ここから先は、それぞれの分野についてもう少し具体的に見ていきます。
観光通訳・日常会話

観光案内や日常会話の逐次通訳であれば、独学+現場経験で十分対応可能です。
観光や日常の場面では、道案内・レストランでの注文・観光地や文化の紹介など、よく出てくる場面がある程度決まっています。
経験を重ねるほどに「どんな質問が来そうか」「どんな説明を求められそうか」のパターンも見えてきます。
あらかじめ想定される質問と、それに添える説明・エピソードをいくつか準備しておくことで、本番でも落ち着いて対応しやすくなります。
もちろん、どの分野の通訳でも「事前準備が第一」であることに変わりはありません。
そのうえで、観光・日常の分野は対象範囲を絞った準備がしやすく、独学で積み上げた力が現場に反映されやすい と感じています。
社内通訳(逐次・会議補助)
社内通訳では、その会社ならではの要素が色濃く出てきます。
- 配布資料に沿った説明
- 部署・会社特有の用語
- 社内事情を前提にしたやり取り
この場合、リスニング・語彙・文法などの基礎力は独学で育てられる一方で、実務や訓練環境の中で鍛えていく必要があります。
- 想定外の質問や脱線に対応するその場の判断力・言い切る力
- 会議全体を俯瞰しながら訳を組み立てる現場対応力
私自身も自動車メーカーの社内通訳として勤務しています。背景知識に助けられて、何とか乗り切れた場面もありました。
それと同時に、予定外の質問や話題の展開についていけず、「鍛え直さないと」と痛感した場面も多くありました。
独学で培ったリスニング力・語彙力・試験で磨いた基礎は確かに支えになります。
でも「想定外」にどこまで耐えられるか は、どうしても現場や訓練環境でしか見えてこない部分が多いと感じています。
社内通訳についての経緯や、独学から通訳学校に至るまでの流れは、回顧録シリーズでも詳しく書いています。
▶社内通訳で独学の限界を痛感
▶通訳学校サイマル・アカデミーを選んだ理由
国際会議通訳・同時通訳

国際会議やシンポジウムの通訳では、より高度な要素が総動員されます。
- 専門分野の深い知識
- 話者のスピードに追いつく処理能力
- 聞きながら訳し続ける同時処理スキル
話者が早口で発言し、予想外のテーマが次々に展開される場面では、独学で積み上げた基礎力だけで長時間太刀打ちするのは、現実的にはかなり厳しい と個人的に思います。
通訳学校や現役通訳の先生方の話を聞いていても、そう思いました。
体系的な訓練+ 本番に近い実践環境の両方がそろって初めて、安定してこなせるようになる——少なくとも、私はそのように受け止めています。
私自身はまだ国際会議のブース経験はありません。
ですが、社内会議の場面で、業務上必要に迫られて「同時通訳めいたこと」を独学ベースで取り組んできました。
- 最初の数分は何とか形になる
- しかし時間がたつと集中力が切れ、数字や条件、話者のニュアンスが少しずつこぼれ始める
こういった感覚は、何度も味わっています。
今の自分の力では、それはあくまで 「形だけの同時通訳」であって、プロ品質とは言えない と自覚しています。
- 独学で培った力だけでは、負荷の高い場面には限界があること
- 逐次通訳の精度をきちんと固め、段階的に訓練を積み上げていく必要があること
私自身の経験からも、上記を強く感じるようになりました。
そのことが、通訳学校に通う決断をした理由の一つにもなっています。
独学でできる通訳トレーニング(基礎の範囲)
独学でも到達できるスキルは少なくありません。ここでは、とくに相性のよい代表的な3つを挙げます。
語彙力・リスニングの強化
語彙力・リスニングは、3本柱でいうと理解力の土台を支える部分です。
ここが不足していると、どれだけリテンションや表現を鍛えても、「そもそも入ってこない情報」が増えてしまいます。
シャドーイングやリテンションなどの基礎訓練
シャドーイングとリテンションは、「理解 → 保持 → 表現」のサイクルを時間内に回す感覚をつくる基礎訓練です。
シャドーイングは処理速度といわゆる「通訳耳」を、リテンションは論理構築力と情報保持を支えてくれます。
通訳学校でも必ず導入されるメニューですが、ニュースやスピーチなどの音声教材とスクリプトがあれば、独学でも十分取り組めます。
- まず意味を取りながらシャドーイング
- 少しずつポーションを伸ばし、要点をメモなしでどこまで保持できるか試す
といった形で、「耳・頭・口」を同時に動かす感覚を養っていくイメージです。
試験対策(TOEIC・英検など)
試験対策は、3本柱そのものを直接鍛えるというより、文法・語彙・読解力といった「基礎体力」を整える役割が大きいと感じています。
通訳訓練に入る前段階の「地ならし」としては、独学との相性がとても良い領域です。
TOEICや英検そのものが通訳力を測るわけではありません。ですが、次のような利点があります。
- 学習を通じて文法・読解・語彙が整理される
- 一定スコアは「基礎はここまではできている」という客観的な目安になる
という意味で、「通訳に挑戦してよい土台があるかどうか」を確認する指標になります。
実際の現場で必要になる瞬発力や柔軟な対応力は、別途トレーニングが必要です。
それでも、試験対策で基礎体力を固めておくかどうかで、その後の通訳訓練の吸収率が大きく変わると感じています。
通訳訓練については、別記事で詳しくまとめています。
▶通訳訓練の3本柱(理解・リテンション・表現)|9つのトレーニング総論
通訳になるには独学だけでは足りない? 独学の上限

✔客観的な「基準線」が見えにくい
独学で一番むずかしいのは、「どのレベルなら通訳として通用するのか」という客観的な基準線がつかみにくいことです。
自分では「まあまあ訳せている」と感じていても、プロや講師の目線から見ると、悲しいことに、ほころびがあるもの。
- 情報のカバレッジや話の筋の通り方
- 日本語・英語としてのレジスター(その場面にふさわしい表現)が足りない
こんなことは、少なくありません。こうした点は、その場でフィードバックを受けて初めて見えてくる部分です。
また、「通訳」といっても求められるレベルはさまざまです。
目指すフィールドが観光レベルなのか、社内通訳なのか、会議通訳なのか?
その違いによって、「どこまで必要か」というラインも変わってきます。
通訳学校の多くは通訳会社が母体になっており、
フリーランス会議通訳者として現場に出せるかどうか を一つの基準として見ていることが多いようです。
社内通訳としての水準より、もう一段・二段高いところを前提にしているイメージです。
ここでの選択肢はシンプルです。
- 「今の職場で社内通訳として機能していれば十分」というのであれば、通訳学校は必須ではない
- 「将来的に会議通訳も視野に入れている」「自分の通訳がプロ基準から見てどうなのか一度知りたい」という場合、通訳学校がその診断装置として役立つ
自分がどのフィールドまでを目標にするのかによって、「独学で完結させるのか」「外側の基準線も一度取り入れてみるのか」が変わってきます。
独学ではつかみにくい「高負荷時の崩れ方」と限界
もう一つの難しさは、負荷が高くなったときに、自分の通訳がどこから崩れていくのかが見えにくいことです。
会議や交渉の場では、下記のようなことに、瞬時に対応する必要があります。
- 予期しない話題の展開
- 想定以上の発言スピード
- 質疑応答での脱線
独学でも教材を使って練習することはできます。
しかし、どうしても両極端になりやすいところがあります。
- 「答えが分かっている範囲」での安全圏の練習にとどまりがち
- 逆に、難しすぎる教材を選んでしまい、理解できずに心が折れてしまう
今の自分にちょうど合った負荷の教材を選び続けること自体が、独学では難しいのだと思います。
私自身も、社内通訳では背景知識に助けられて何とかこなせる場面が多くありました。
しかし通訳学校の授業やテストでは、未知のトピックに一発勝負で臨むことになり、頭が真っ白になる経験を何度もしました。
- 長めのポーション
- 初見の資料
- 緊張感のある場での一発勝負
こうした負荷の中で初めて、自分の弱点が可視化されます。
- どこから情報が落ち始めるのか?
- 耐えられる長さ・難易度は?
これもまた、訓練環境や本番に近い場に身を置かないと、自分では把握しづらい部分だと感じています。
訳の質感・瞬発力・メンタル
最後に、訳の質感・瞬発力・メンタルの3つは、独学だけではどうしても伸ばしにくい領域です。
通訳では、次のことが求められます。
途中で止まらずに「内容を逸れない範囲で言い切る」
独学で練習していると、どうしても慎重になりすぎてしまい、「途中で止まって言い直す」クセが抜けにくいものです。
私自身も、一人で訓練しているときは意識しているつもりでも、つい止まってしまう傾向がありました。こういった学習方法や自分の出来なさに打ちのめされるメンタル面も、一人で抱え込むと、どうしても感情に振り回されがちです。
また、訳の質感は、自分ひとりでは判断が難しい場面もあります。
- 日本語/英語として自然かどうか
- その場のレジスター(くだけ具合・フォーマルさ)が適切か
- プロとして出してよいニュアンスかどうか
一方で、通訳学校であれば、ネイティブ講師や現役通訳者のコメントが入ることで、一気に輪郭がはっきりしていきます。
通訳学校に通うメリット

独学で基礎力を積み上げることは可能ですが、一定の壁を超えるためには「訓練環境」から得られるものが大きいと実感しました。ここでは学校で特に大きな学びとなった点を紹介します。
講師からの即時フィードバック
「この訳し方でいいのか?」「もっと自然な言い方は?」といった疑問に、その場で答えが返ってくるのが学校の強みです。
私も社内通訳を続ける中で、「伝わればいい、という脳回路になっている」と指摘されたことで、プロとしての基準線を初めて実感しました。
仲間からの刺激
同じ目標を持つ受講生の訳を聞くことで、自分にはない表現やアプローチに触れられます。
「あ、こういう言い回しがあるのか」と気づくことが多く、独学だけではなかなか得られない刺激でした。仲間の成長速度を見ることも、大きなモチベーションになります。
テスト・本番環境
中間テストや期末テストを通じて、緊張感のある実戦経験が積めるのも学校ならではです。
社内通訳では背景知識で補える場面も多かったのですが、未知のテーマで一発勝負の通訳をするプレッシャーはまったく別物でした。
これを繰り返し経験することで、ようやく本番に耐える精神力が培われていきました。
👉 独学で限界を感じたとき、通訳学校は「成長を加速させる場所」になる。
通訳学校と独学の“役割分担”の考え方
個人的には、通訳訓練は次のように考えると、通訳学校も独学もムダが少なくなると感じています。
独学の役割
・3本柱の「筋トレ部分」を地道に積み上げる
・処理速度・表現ストックなど、量がものを言う部分を、日々の自習で底上げする
・自分なりの「学び方の型」(シャドーイング→リプロ→要約…)を作っておく
通訳学校の役割
・プロの目線で「どこがボトルネックか」を特定してもらう
・本番に近い負荷の中で、自分の限界と崩れ方を確認する
・訳の質感やレジスター、現場感覚をフィードバックしてもらう
・同じ目標を持つ仲間と一緒に、長距離走を続けるための環境とリズムを得る
通訳学校に通っていると、「授業に出ている=訓練している」と思いがちです。
ですが、授業は“診断と調整の場”、筋肉をつけるのは日々の独学というイメージに近いのではないでしょうか。
「ここまでは自分で鍛える」「ここから先は学校や講師に見てもらう」というラインを一度言語化しておくと、限られた時間の中でも、通訳訓練を進めやすくなるかと思います。
まとめ:独学か学校か迷っている人へ
語彙・リスニング、シャドーイングやリテンションといった3本柱の「筋トレ部分」は、工夫次第で着実に積み上げていけます。
一方で、「どのレベルなら通訳として通用するのか」「高い負荷がかかったときどこから崩れるのか」「訳の質感やメンタル面はどうか」といった部分は、独学だけではどうしても見えにくい領域です。
どの分野の通訳を目指すのかを明確化したうえで、「ここまでは独学で鍛える/ここから先は学校や講師に見てもらう」というラインを決めておくことおすすめします。
そうすることによって、限られた時間とコストでも、通訳訓練を進めやすくなるかと思います。
本記事が、みなさんの学校選びや学習の参考になれば幸いです。
もし「独学で通訳トレーニングを続けてきたけれど、この先どうするか迷っている」のであれば、次の2つの記事も参考になると思います。
通訳学校に行くべきか、悩んでいる方は、下記の記事も参考にしてみてください。
通訳学校まわりの全体像をまとめて見たい方は、「通訳学校について一気にわかる案内板」 もあわせてご覧ください。
通訳訓練トレーニングについては、下記の記事にまとめてあるので、参考にしてみてください。
筆者のサイマルアカデミー通学の記録は下記の回顧録シリーズで書いています↓
この記事は有益でしたか?
このブログを書いている人
社内通訳として働きながら、通訳学校で学んだことをベースに「英語学習の工夫」を発信しています。
シャドーイングやディクテーション、独学の限界など、実践的に役立つ情報をお届けします。




